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仙台高等裁判所 昭和36年(ラ)55号 決定

抗告人 佐藤睦

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

記録を調査するに、針ケ谷周一と抗告人間の福島地方裁判所相馬支部昭和三四年(ワ)第四五号貸金請求事件および昭和三五年(ワ)第三〇号債務不存在確認反訴事件につき昭和三五年八月三一日和解が成立し、次いで針ケ谷の申し立てにより昭和三六年六月八日同裁判所書記官補津田稔が右和解調書に対し執行文を付与したこと、その後抗告人は右和解の無効を主張して同裁判所に口頭弁論期日の指定を申し立てたところ、右期日が同年七月一九日と指定されたこと、以上の事実が認められる。

しかしながら、和解を調書に記載したときは、その記載は確定判決と同一の効力を有するから、たとえ和解の無効を主張する当事者の申し立てにより口頭弁論期日を指定し前訴訟を続行する場合であつても、そのことにより当然に和解が失効するのではないから、和解調書に対し執行文付与の申請があるときはこれを付与すべきものであり、まして本件のように、口頭弁論期日の指定前すでに執行文が付与されている場合、その後に期日指定がされたからといつて、右和解調書の執行力が消滅するいわれがないから、さきに付与された執行文を取り消すべきものではない。抗告人の主張は独自の見解に基づくものでもとより採用の限りではない。それゆえ本件抗告は理由がないからこれを棄却すべく、民訴四一四条、三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤規矩三 石井義彦 佐藤幸太郎)

抗告の趣旨

原決定はこれを取消す。

抗告人佐藤睦及相手方針ケ谷周一間の福島地方裁判所相馬支部昭和三四年(ワ)第四五号事件につき同裁判所書記官が付与した執行文は之を取消す。

右執行力ある和解調書正本に基き昭和三六年六月一二日申立人に対してなした強制執行は之を許さない。

抗告の理由

一、右相手方を原告とし、抗告人を被告とする福島地方裁判所昭和三四年(ワ)第四五号貸金請求事件につき、昭和三五年八月三一日成立したる和解調書に対し、抗告人は不服として口頭弁論期日の再開を原裁判所に申立てたところ、之が認められて口頭弁論の再開となり昭和三六年七月一九日と期日指定がなされているものである。然るに同裁判所書記官は右和解調書正本に対し昭和三六年六月八日執行文を付与し、相手方は抗告人所有の不動産に対し強制執行をなし競売開始決定となつた。

二、之に対し抗告人は原裁判所に対し右執行文付与は和解調書を不服とした口頭弁論再開中で不当であるとし異議申立に及んだものである。

三、右異議申立につき原裁判所は右和解調書は民事訴訟法第二〇三条により確定判決と同一の効力を有するものであるとして、執行文付与は適法として異議申立を却下した。

四、然し乍ら原裁判所は右和解調書成立後直ちに右和解を不服として、口頭弁論再開を申立てたる抗告人の申立を認容し口頭弁論を再開したものであり、この限りに於て右事件の終局判決のあるまで右和解調書は、確定せぬものである。

原裁判所の決定理由の如く右和解調書が確定しているものならば、同一事件に対する口頭弁論再開は何に依拠するものなのか明らかに失当となるものであり、右事件の終局判決あるまで和解調書正本に対し執行文を付与することは許されぬものである。

五、抗告人は原裁判所に於て口頭弁論再開となつた限り右和解調書正本に基く強制執行はなきものと信じ、再開された右事件の口頭弁論の準備にあたつて居るものであるが、原裁判所にて和解調書正本に対する執行文付与がなされては抗告人は回復すべからざる不利益を蒙るものであり、依つて抗告人は抗告の趣旨記載の通りの御裁判を求め本件申立に及ぶ次第である。

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